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*『天賦の才か努力の天才か、それが青春だ!』ジョニー・トー『柔道龍虎房』

実は先に『エレクション:黒社会』をあげるべきかもしれないがあえてのこの作品をアップする。
やっと観たわけだけどこれはトー監督を観て来た人間には堪らない。
だがこれは初見の人に『あなたは幸運だ!』とは手放しではオススメできないところがある。だがそれを推してまずトーさん初見の人に観て欲しい作品だと言おう。
いきなりの『姿三四郎』しかもジャージの男が草原で独唱。これは一見さんには敷居が高い。世の中いきなりのインパクトについていける人は少ない。まずそこで脱落してしまうだろう。だがそこを乗り越えてもまだまだ試練は待っている。この映画、香港電影の定石に則っている。主人公がダメ男、そしてライバルで主人公の最大の理解者、ヒロインが織り成すストーリー。そして話がなんだかよく見えないのだ。つまり香港電影の正しい理解がなければその面白さが染み込まない。それにおかしい部分も多々ある。変なシーンだってある。路上で全員が柔道で戦う!そんなシーンが想像できますか?でもあるのだ。
だが徐々にこの3人に話の焦点が合いだしてからストーリーが加速する。ここまで観ればもう完全に画面に引き込まれていることは間違いない!それは断言できる。
だからもしあなたがこれはどうだろうか?と思うのならとりあえず全部観なさいと言いたい。



白状するとおいら基本的にこういう映画は苦手であまり観ない。多分トーさんでなかったらそれこそスルーしていただろう。だがトーさんが撮ったからということで観た。ちなみにあまり他の情報、評判は入れなかった果たして観てみると撮影は凄い、トーさんの画面だ!となったがまだ話にのめり込めなかった。しかし3人が揃いだしてから俄然画面に喰い付いた!これは3人の青春譚でありどこかで見たような肩車のシーンが出てくることでもそれはあきらかだ。そういう年代的に来る人が観るとすぐ解るんじゃないかな。そしてそういう映画を真っ向から撮り切ったトーさんは素直に凄いと思ったのだった。

また話を彩る、他の登場人物が濃いのも香港電影のお約束。だがこの映画には善人も悪人もいない。みな香港に生きているちょっと変わった、でも一所懸命な人たちばかり。
柔道の達人だったが今じゃ賭博に狂いアル中の寸前のバーの雇われマスター、シト・ボウ(ルイス・クー)。そして彼と柔道の勝負したがるトニー(アーロン・クォック)、シンガーになって成功する夢を見て香港にやってきてシト・ボウのバーに雇ってほしいとおしかえるシウモン。
他にもゲームセンターで子供にも容赦なく本気でエアホッケーをするような子供じみたところがあるヤクザ(実は柔道の達人)を『ブレイキングニュース』でケリー・チャンのサポートをしていた警視役の人がやってたりとかシト・ボウの柔道の師匠が『PTU』のヤクザのボス『ハゲ』だったりとかトー組作品を追っている人には御馴染みの顔がちらほら。
そして達人役レイ・アコン(レオン・カーファイ)も美味しい役回りを渋く演じている。

そしてさすがトーさん。どのシーンもそれまでつちかってきた手法がちゃんといかされている。『ブレイキングニュース』の長回しにクレーンショット、そして『PTU』の独特な照明。その全てにトーさん印が入っているかのようなそんな画面。

だがこういうベタな物語をこういう風に纏めるのは他の人では出来ないなとつくづく思う。なんというかセンスを感じる。いやそれは『鎗火』を観た時からそう思っていたけれどやはり道場のショットとか賭場から逃げるシーンとかそういう部分にトー節が炸裂している。
基本的にちょっとこうわざとらしさが滲み出てくるのが自分は苦手なんだけれどなんだろううまくラストまでもって行ってもらった感じがする。というかいつか観た懐かしい感じが滲み出ている。多分ある程度の年齢の人ならわかるんじゃないだろうか。
昔はこういう話がいっぱいあってでも何故かジーンと来たんだけれど随分長い間忘れていたような気がする。
無駄に難病モノとか泣かせモノとかあるけれどちょっと違う、生きるということと青春に対しての郷愁を揺さぶられる作品だった。


『泣いてもいいから前を見ろ』この映画のキャッチだがこれがまた年代的にくすぐるんだよなあ。
あと黒澤明に捧ぐと出ていたが黒澤版はおいら未見。なんでも藤田進さん(地球防衛軍の司令官ですな)が三四郎だそうだ。

by tonbori-dr | 2007-10-03 23:41 | スルー映画祭り