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鷲は舞い降りた

著者の前書きによると
1943年11月6日、土曜日の午後1時きっかりに、ナチ親衛隊及び国家秘密警察の長官、ハインリッヒ・ヒムラーは、かんたんな連絡文を受け取った。<鷲は舞い降りた>その意味は、ドイツ落下傘兵の小部隊が無事イギリスにあって、ノーフォークの海辺にある地元素封家の邸宅で静かに週末を過ごすことになっているイギリスの首相、ウィンストン・チャーチルを誘拐するべく待機している、というものであった。|ジャック・ヒギンズ著「鷲は舞い降りた」ハヤカワ文庫菊地光訳より

この一文から始まるこの物語はロマンチックな愚か者であるクルト・シュタイナ中佐率いる歴戦のドイツ国防軍落下傘兵部隊が大胆不敵にもイギリスのチャーチル首相を誘拐するという任務を否応無く受けさせられる冒頭部から実際にイギリスに侵入しチャーチルが誘拐できるのか?という物語である。
どうなるかは書かないけれどこの部分までで震える人は即買いであることは請け負う。

完全版というものが出ていると聞くがとくにそうでなくても良い。




正直ジャック・ヒギンズという人は初期に名作が多くその後の作品はけっこうワンパターンだったりする。この「鷲は舞い降りた」は初期の傑作で後年続編が書かれたがこれより見劣りしてしまうぐらいこの作品は面白い。(というか続編はやっちゃいかんことをやってしまっている)
登場人物は実在の人物(軍情報局の長官ヴィルヘルム・カナリス提督やヒムラー、冒頭にはヒトラーさえも出てくる)などを配しヒトラーが激昂したときに口走った言葉からカナリス提督が部下のマックス・ラードル中佐に可能性評価を報告するようにというところから始まる。
発端となるラードルはロシア戦線で右手と右目を失った傷痍軍人。その勲功で騎士十字章をうけている。彼が調べた結果は作戦は充分に実行可能というものだった。ノーフォークにいるドイツのスパイ(68歳の老婦人)ミセズ・グレイの送ってきた情報ではチャーチルがノーフォークの素封家の邸宅で静養するというもの。ラードルはその作戦を実行できる人間を探す。その男がクルト・シュタイナだった。ロシア戦線からドイツに戻る途中ポーランドでユダヤ人虐殺を目撃したシュタイナはユダヤ人少女を助け出したためドーバー海峡のチャンネル諸島で懲役隊任務として「めかじき作戦」(空の魚雷にまたがって敵の艦船に近づき吊るした魚雷を撃ちこむ)に従事していた。ラードルはカナリス提督に進言するがカナリス自身はこの作戦になんに益も無いことを見抜いておりその話はそこで終わるはずだったがヒムラーがラードルを悪名高きゲシュタポ本部によび作戦を実行するように告げる。ヒムラーに目を付けられたラードルは自らの家族のため作戦を実行に移す。そのため部隊に先行して工作行う男としてIRAの闘士で今はベルリン大学で英語の講師をしているデブリンを呼び寄せ回収のEボート、潜入のための輸送機などを着々と準備をしていく。

このあらすじは1/3である。物語はここから面白くなる。荒唐無稽な作戦。しかし計画通りなら成功は確実。そう計画通りならばその作戦に誰のためでももちろんヒムラーやヒトラーのためでなく己の命を賭けるシュタイナたち。そしてIRAの闘士として数奇な運命を辿りファシズムとは反対の位置にいながらこの作戦に参加する偉大な冒険家の最後の一人リーアム・デヴリン。ノーフォークの片田舎ホッブスエンドの住人たち、ヴェリカ神父やひと時のやすらぎをデヴリンに与えた娘モリイ。キャラクターたちが圧倒的に生き生きとしている。
物語もいったいどうなってしまうのか?というサスペンス。困難な任務に立ち向かう男達のアクションなどがあり今読み返しても素晴らしい作品。
ゲームに支配されたのかそれともゲームが彼らを操っているのか?
しかし男の生き様とはその行動によってしか示されないということ教えてくれる。
鷲は舞い降りた
ジャック・ヒギンズ 菊池 光 / 早川書房

by tonbori-dr | 2004-12-19 01:50 | お気に入り