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許されざる者たち「トゥルー・グリット」

かなりまっとうな西部劇。最近に制作された作品群の流れを感じる。
リアルに描写された開拓地の描写や衣裳。それらがちゃんと西部劇ですと主張している。

これはマカロニ以後の西部劇だ。デューク(ジョン・ウェイン)主演で作られた初代トゥルー・グリット『勇気ある追跡』が古きよき黄金期のハリウッドを懐古した王道西部劇映画とすれば、こちらはマカロニ、ニューアメリカンシネマを経て、そしてクリントの「許されざる者」を経た西部劇の系譜と見て間違いないと思う。

ただしコーエン兄弟なのでそこかしこに分かりにくいがコーエン印を打ち込んできているなっていう印象。
ブラッキーなくすぐりとか妙にするどい描写とか。だがそれさえも『許さざる者』に収斂していくという恐るべしクリント・イーストウッド。

語り口が14歳の少女マティというのももこの映画を一種独特なものとしているし、初代のトゥルー・グリット「勇気ある追跡」と違ってややもすると、意地悪い描写が続く。『勇気ある追跡』とちがって田舎の牧場を営む幸せな家庭から出発した父を描かず、酒場の外で倒れているシーンから入り、葬儀屋での対面や、死刑シーンの描写も違う。ここままさに『許されざる者』以降を強く意識するシーン。

ただ原作にあるシーンは最大限もらさず入れていると兄弟が発言しているので、裁判所での出会いや河原でのコルト・ドラグーンの発砲シーンなどデューク版であった描写もある。そこを観てもこの映画はマティが主人公の映画なんだなということがはっきりしている。

そして兄弟は否定はしているが同じくアカデミーにノミネートされ受賞した「ノーカントリー」との相似点も。それは設定ではなく、空気とか古きよきものへの懐古をさりげなく表しているテーマとか。そして運命への抗いと、代償とかそういう部分。

それで言えばこの作品、コーエン作品では歪な恋愛が描かれ事が多いがそれもこの作品ではしっかりと描写されている。もともとデューク版ではちょっといい話に落ち着けているのに(それでもよく考えるとあの時代では英断というべきか)原作どおりとはいえ(未読)に抉り出す。とまあこれいつも引用させていただいる町山さんの解説の受け売りです(^^;(リンクいれてます)そんで、そこも含めても『ノーカントリー』との相似性を感じ取ったんだけど町山さんの講演を聞いたらノーカントリーの原作者とこのトゥルー・グリットの原作者はお友達だそうだ!ほんとコーエン兄弟らしいわww(ちなみに両人とも高齢かつトゥルー・グリットの原作者は羊たちの沈黙の原作者のように寡作な方らしい。)

自分にはコーエン兄弟がまっとうに取り組んだウェスタンとして楽しめた。



そういえばコグバーンってデューク版だとなんとはなく北軍、南軍っていうことはあまり意識しない。たいていどちらかの出身でも『イイ人』だからだ。敵には容赦は無いけれど無辜の人に手をかけるという事は無い。だがコーエン版コグバーンはどう見たって『イイ人』じゃない。
台詞から聞き取れた部分で言えば彼は南軍のクァントリル大尉の指揮するゲリラ部隊に参加していた(映画評論家町山智浩さんによるとコグバーンが所属した(またはしていた)のはブッシュワッカーというらしい。確かにクァントリルの前にそう言ってた。アンブッシュ、待ち伏せ部隊か?)個人的にはクァントリルの名前が出たことに別の意味でおおっと思った。ヤンガー兄弟とか。そう「ロングライダース」!個人的好きな映画だ。正直西部劇スキーな人にしかオススメしない映画だけどあれを観てる人ならこの部分すっと入ってくるんじゃないかな?

でもやっぱりクリントの「許されざる者」以後の世界観っていうのがあって。クリントはアウトローやペイルライダーでそういう世界を描き出しそして「許されざる者」を撮った。もちろんそれには先行者としての「ロングライダース」や遡れば「俺たちに明日はない」「ワイルドバンチ」もあったわけで。
だからオスカーにノミネートはされても今更感があってなにも獲れなかったのかな?というのは穿ちすぎか?でも現代に撮られた西部劇としてはよく出来た別の意味での王道といってもいい。あくまでも古きよき西部劇を目指したものでなく、今の時代の西部劇として。
【ニコニコ動画】町山智浩 in 川越スカラ座 3/5 「トゥルー・グリット」解説1
町山さんの川越スカラ座での講演の模様。トゥルー・グリットについての部分。この後2本ほどありますので。注意。要アカウント。貼りつけがうまくいかないので。すみませぬ。

「トゥルー・グリット」の映画詳細、映画館情報はこちら >>

by tonbori-dr | 2011-04-20 00:16 | Movie