*ラストシュートとはいいたくない。『グラン・トリノ』

ほぼ皆さんいいつくされた感じなので今更付け加えることも無くただただクリント・イーストウッドファンなら劇場で観て欲しい1本。

ファーストシーンで『ジーサス』というのはハリー・キャラハンのセルフオマージュやなと思ったら、帰りに本屋さんで立ち読みした『映画秘宝』でもウェイン町山さんがそう指摘していた(笑)

この映画はそういうクリントの今までの自らの作品の引用、セルフオマージュもあるし、今のアメリカを映しこんでいる部分(ここも町山さんが色々書き出していたので気になる方は映画秘宝の今月号をチェック)も多い。

非常に豊かである一方で実は殺伐とした部分もあるし、またなごませてくれる、ある意味クリントお得意の作品といってもいいだろう。

あとCMで優しく衝撃なラストっていう宣伝文句はいかがなものかと(^^;ちなみに優しくなく衝撃のラストは『白い肌の異常な夜』で決まりなのは間違いない(笑)

男の落とし前の付け方、精神の継承などなど、今までのクリント作品の集大成っぽくも言われているが自分がこの作品を観た時に思った事はこれはドン・シーゲル監督、ジョン・ウェイン『ラスト・シューティスト』だなという事。
映画好きなら腑に落ちる人も多いだろうし、ドン・シーゲルとクリントといえば傑作『ダーティハリー』を思い出す人も多いだろうしタカ派なイメージ的に納得(ウォルトの造形など)するかもしれないがドン・シーゲルとクリントってどこか反骨であり保守だけど筋は通す。それが悪党でも善玉でもという部分がこの作品の中にも底流にある。

またクリントの映画の師匠筋はマカロニウェスタンの大御所セルジオ・レオーネとドン・シーゲルというのはほぼ間違いなく、『許されざる者』で2人献辞をささげているがもしかすると以降の作品も2人とくにドン・シーゲルにささげているのかもしれない。

脚本はこれが処女作のニック・シェンク
彼のインタビューがバラエティ・JAPANのサイトに掲載されている。
バラエティ・ジャパン | クリント・イーストウッド監督が「ひと言も変えない」と守った脚本
これはハリウッドの流儀(お客の反応を見てホンを直すにとどまらず、スポンサーやプロデューサー、そして監督の意向でホンがどんどん書き直されていく)から見れば異例だが設定の変更だけで殆ど手を加えなかったというのには驚いた。それだけクリントにとってはカチっとはまったホンだったのだろう。

クリントはこの作品後のインタビューで俳優の引退宣言めいたものをしていることが報道された。
クリント・イーストウッド、俳優を引退宣言!監督業に専念 - シネマトゥデイ
しかし別のインタビュー記事でこういう発言もしている。
イーストウッド俳優引退宣言、監督専念へ(芸能) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
「もう積極的に自分が演じる役を探すことはしない。いまの映画の役は、みんな若い役者向けに書かれているから」。

特にクリントにあて書きというかクリントが演じるべき役柄があれば作品に出ることは不可能じゃないんじゃないかなと。
個人的にはハリーとしての落とし前を観たい。(それは『SIN CITY』のフランク・ミラーがイエローバスタードのエピソードで描いていたような物語になるかもしれないけれど。ちなみにこのエピソードはミラー自身のハリー・キャラハンへのオマージュだそうだ。)

エンディングに流れるクリントのしわがれたボーカルが切なく染み入る。是非映画館で聴いて欲しい。




以下余談

モン族関係で言うと町山さんが書いた『映画の見方がわかる本』で『地獄の黙示録』のエピソードで紹介された本当の『地獄の黙示録』のような話としてCIAの工作員が現地に浸透しモン族を使ってラオスの共産勢力とホーチミンルートの分断の戦い指揮したが次第にその工作員が現地で酋長のような振る舞いをしだしたという話が紹介されている(実話なそうな)
ちなみに極東ブログさんでラオスとモン族についてのエントリがあったので
極東ブログ: ラオスとモン(Hmong)族のこと
背景を知るにはいいと思う。

グラン・トリノはいわずとしれた『赤い稲妻』ゼブラ6でもある。『刑事スタスキー&ハッチの愛車であり覆面パトカー。
無線コードがゼブラ6だった。
ファイル:Gran-Torino.jpg - Wikipedia
この70年代のアメリカンスポーツカーといえば同じフォードのマスタングも有名。
映画にも度々出ている(60セカンドとか)アメリカの景気の良かった頃の象徴でもあるが一方ではベトナムなどの暗い影やアメリカン・ニューシネマが台頭してきた時代でもある。

主人公コワルスキーは第一騎兵師団の所属でこれは『ワンス・アンド・フォーエバー』でのメルギブの所属している部隊であり、『地獄の黙示録』でキルゴア中佐が指揮していたヘリによるエアボーンを中心とした部隊だけど、朝鮮戦争時はまだそうでは無かった。普通の機甲化歩兵部隊だったようだ。
日本のウィキペディアには無かったが英語での項目があったので参考までに。
相当な激戦区の担当だったようだ。
1st Cavalry Division (United States) - Wikipedia, the free encyclopedia

コワルスキーの横に越してくるモン族の親子、コワルスキーの薫陶を受けるタオ、しっかりものの姉スーやお母さんにおばあちゃん(強烈なキャラ!)はほぼこれが映画での演技は初めてという方々ばかりだがしっくり来ている。これは『硫黄島からの手紙』でも思ったけれど普通言葉の壁があるのにクリントの映画ではそれがまるで崩れ去っているかのような感覚がある。それだけリラックスした雰囲気を作っているということなんだろうけど、そこに彼の監督としての非凡さを感じる。

だがイタリア人の床屋、ジョン・キャロル・リンチがいい味を出しているのを今回は推したい。彼ははっきし言って今までのフィルモグラフィーを見てもコワモテか犯人役な人だけど(特に『ゾディアック』では容疑者の一人で印象深い))今回はコワルスキーと無駄口を叩きあうオヤジを演じていてこれまた味わい深い。今後も活躍を期待したい人。

コルトガバメントとM1ガーランドはある一定のアメリカ人なら思い入れの深い武器。それが象徴的につかわれているのも上手いなと思わしてくれる。ギャングのイングラムというかマイクロUZIのような武器に対しての対比でもありコワルスキーの来歴が一目で分かる小道具でもある。

以下ブログお友だち関係のエントリ。
samuraiの気になる映画 : 「グラン・トリノ」 -ネタバレあまり無し-
シネマ親父の“日々是妄言” : 「グラン・トリノ」すべての人へ…見てください!
映画の心理プロファイル : 『グラン・トリノ』(2008 米)
愛すべき映画たち 『グラン・トリノ』(2008/クリント・イーストウッド)
風人日記: 『グラン・トリノ』 ☆☆☆★


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by tonbori-dr | 2009-05-04 23:40 | Movie