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「殺人の追憶-MEMORIES OF MURDER-」短評

スルー映画祭り20本目。あらすじネタバレつきに付き注意してください。
韓流ブームにのって観た人たちはかなり衝撃を受けたに違いない。
ただの映画じゃない。実のところ韓流ブームに乗ってやってきたやってきた映画の中には?なものもあるし過剰なまでのけれんみがあるモノもたくさんある。
ただコレは冒頭から静謐な空気をたたえていた。
そしてトーンが静かである。もちろん暴力シーンもあるし目を覆いたくなるような殺人のシーンもある。
死体をまざまざと見せつけるというシーンだってある。
だが張り詰めた緊張感がずっと1本通っている。
それらと事件の起こった時の韓国の状況(軍事政権化で今のような太陽政策でない対北強硬路線で「シルミド」で取上げられた事件なんかも同時代だ。)がもしかすると暗合しているのかもしれない。
度々劇中で防空訓練が行われるシーンが挿入されるがそれがまた圧迫感を生む。
それほどに緊張感と重圧感の溢れる映画だった。



1986年10月。韓国のソウルから離れたファソンという農村地帯。
ここで2人の女性が強姦され殺される事件が発生する。事件を担当する地元警察のパク・トゥマン(ソン・ガンホ)らは事件を捜査するが杜撰な現場保持、強引な取調べで一向に埒があかない。「俺はそいつの目を見れば犯人が解る」と豪語するパクだが全くといって良いほどの証拠の少なさ目撃者の無さに頭を抱えていた。ソウルからきた刑事ソ・テユン(キム・サンギョン)事件解決の応援にやってきたのだという。進歩的な捜査方法や推理を働かせるテユンと刑事は足で解決するものというパクとはそりが合わない。最初の容疑者は知的障害者。自白を誘導し証拠を捏造までするが結局証拠不十分。そしてソが新たな被害者を発見し被害者に共通項を見出す。「独身、美人、そして雨の日に赤い服を着ていた」囮捜査まで実施するが第4の被害者が。偶然殺害現場で捕らえられた男。女の下着を見につけ、自慰に耽っていたチョが真犯人とパクたちは拷問まがいの尋問で締め上げる。しかしソそれに疑問を抱きは囮捜査中に女学生から聞いた噂「学校の便所に犯人が隠れている」をたよりに学校へ。その裏手の畑で犯人に襲われながらも犯人の顔を見ようとしなかったために助かった被害者を見つける。女性は「犯人の手は女のようにやわらかく白かった」と証言。ソはチョの手を見て言う「犯人とは違う」と。そんな中もう一つの共通項「事件当日にFMで「憂鬱な手紙」がかかる」がラジオから流れ出る。そして天気は雨。第6の被害者が発見される。
FM局に残っていた手紙からパク・ヒョンギュ(パク・ヘイル)が容疑者として連行される。軍隊から除隊後ファソン近くの工場で働きだしたのが昨年の9月。この頃から殺人が起きた。
しかし決め手に欠ける警察。しかもパクの短気な相棒が殴りかかり容疑者は釈放。
その時パクは第1の容疑者クァンホがやってもいない殺しをすらすらと喋ったことで彼が唯一の目撃者と気がつく。クァンホの家焼肉屋に向かうパク。そこには相棒の姿が。落ち込んでいた相棒は暴力刑事のニュースがきっかけで店先で乱闘。そこに戻ってきたクァンホの振り回した棒の古釘がささってしまう。混乱したクァンホを追うソとパク。しかしクァンホは列車にはねられ死んでしまう。全てが徒労に終わったかのように見えたがDNA鑑定が残されていた。しかし容疑者を留め置くことは出来ずそんな中第7の犠牲者が。その犠牲者は噂を教えてくれた女学生だった。何かが心の中で切れたソはヒョンギュの元へ向かう。

パクとソのあまりにも違うタイプの刑事が入ることでバディモノ?と思う方もいらっしゃるかもしれない。しかしこの話はそう単純じゃない。事件を追う2人、ソとパクは新しい進歩的な人と旧いタイプのカリカチュアライズされたその雰囲気を掬い取ってもいる。2人を通して韓国人の辿ってきた道が見えてくるという構成。そして顔の見えない犯人。一応最重要容疑者ヒョンギュなる人物が出てくるが犯行を犯す際に顔が一切写らない。これは物語の元になった事件が未だ未解決であるからだろうがそれがまた陰鬱な静寂をさらに際立たせる。
たぶんにハリウッドでなく日本でも同じサイコパスキラーの話が出てきてもこうは出来ないだろう。それだけに精神の奥底に横たわる静かな澱が滴を落すような感覚を感じさせる。
ラストシーンもそれをさらに印象づけさせられた。
監督はポン・ジュノ。そうとうに力が入っておりそれだけの力作だ。
以前に観た同じ韓国の映画「イエスタディ」のように空回りしていない。
どちらも力入っているのは同じなんだけどそれがうまく噛みあっている感じ。
キャストについては
パク刑事役のソン・ガンホ。上手い人だ。
「JSA」や「シュリ」の時にも思ったけれど幅が広い。よく鍛えられているなと感じる。
ソ刑事役キム・サンギョン。都会から来た刑事を好演。後半の崩れ具合もうまくこなしている。
ちなみに音楽は岩代太郎が担当している。
この映画は覚えておいても損は無いだろう。
追記 3/30 22:02文章を一部改訂。(感想部分)
殺人の追憶
/ アミューズソフトエンタテインメント
ISBN : B0001M3XHY

by tonbori-dr | 2005-03-19 23:32 | スルー映画祭り